とんかつ

美味しい話 ~とんかつ~

とんかつといえば、日本人の愛する料理の一つ。
カツなので洋食とも見做されがちですが、その独特の成り立ちから、
もはや完全なる和食といっていいようです。

日本人の知恵が凝縮した人気料理

とんかつの歴史は、1895年(明治28)に銀座の煉瓦亭が生キャベツを添えた「豚肉のカツレツ」を売り出したことに始まります。ただ、その時はまだ、肉は薄いまま。1929年(昭和4)、上野のポンチ軒が分厚い豚肉を揚げた「とんかつ」を売り出すに及んで、ついに「とんかつ」が誕生したとされています。

食文化史研究家・岡田哲氏は、洋食の歴史を詳しく紐解いた著「とんかつの誕生 明治洋食事始め」(講談社選書メチエ)で、前述の歴史のほか、とんかつが洋食でなく、和食の一つとして完成するまでの経緯を述べています。それによると、「日本式の大粒のパン粉を使う」「天ぷら式のディープ・フライ」「刻んだ生キャベツを添える」「日本式のウスターソースをかける」「箸を使って、味噌汁をすすりながら、米飯で楽しむ」ことが、和食たるゆえんだとか。なるほど、それらは確かに日本人の嗜好を満たすための創意工夫の賜物、とんかつが日本固有に発達した料理であることがわかります。

岡田氏は油をたっぷり使い、二度揚げ、三度揚げなど、おいしくするための工夫を凝らした揚げ方にも「日本人の知恵」を見出します。日本橋で40数年のれんを掲げるとんかつ屋さんのご主人も、「揚げ方のタイミングは揚げる量によっても変わる。感覚で覚えるものです」と、その奥の深さを語ります。また、時代によって変化するポイントもあります。その一つが、素材の選び方。現代はさまざまな豚の品種が開発され、脂ののり具合など、とんかつに合う種類を見極めるのが重要だそうです。さらに、以前はソースで食べるのが一般的だったのが、最近は醤油、または塩など、味わい方も多様になってきているとか。いずれにしても、日本人はとんかつが大好き。味わい方の多様化に見える如く、おいしいとんかつを求める心は、まだまだ尽きそうにありません。

 

※取材協力 宇田川

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